2016年6月7日火曜日

調査成果のご紹介:2016年5月15日〜6月5日

2016年5月15日〜6月5日まで、インド、ケーララ州およびカルナータカ州で調査を実施しました。

ケーララ州では当初、南インド巨石文化遺跡の分布調査を予定していましたが、例年よりも2〜3週間早い雨季の到来により、調査内容を変更し、ケーララ州立大学所蔵考古資料の記録化と分析を行いました。対象としたのは、ケーララ州立大学考古学科がグジャラート州で実施しているインダス文明遺跡の分布調査で採集された石製玉類を中心とする資料と、同じく同大学が以前に実施したケーララ州所在ニラマンクラム遺跡(南インド巨石文化期の古墳群)出土の土器資料です。

石製玉類はインダス文明期とその後の鉄器時代をつなぐ重要な考古資料の一つで、その形態的・技術的研究によって、技術継承・変容・拡散、社会・文化的価値の変容といったテーマを論ずることが可能になると考えています。私見では、インダス文明衰退後にインダス文明期の玉作りの技術が東方地域(ガンガー平原)に拡散し、それが鉄器時代の玉作りの基盤をなすとともに、前1千年紀の段階で南インドにも拡散し、南インド巨石文化期における副葬品として利用されるようになったと考えています。南インドに拡散していく中で、一種の威信財として新たな意味・価値を付与され、さらには前1千年紀後半の段階で海洋交易の発達とともに東南アジアへと輸出されるようになった可能性が高いと考えられます。こうした石製装身具の歴史的重要性を鑑みると、インダス文明期以降の石製装身具の変遷を巨視的・微視的に解明していくことが不可欠の研究課題といえます。

また、ニラマンクラム遺跡では古墳から土器・石製装身具が出土しています。以前からこの遺跡の出土資料の記録化を進めてきましたが、今回はその残りの資料の検討を行うことによって、ケーララ州域における南インド巨石文化期の土器の特徴の把握が可能になりました。年代測定の結果、この古墳は前4・3世紀以降のものである可能性が示唆されていますので、出土土器に一定の年代的定点を与えることができ、他地域の土器との比較によって南インド巨石文化編年の構築へと展開していくことが期待されます。

またケーララ州立大学では、5月27日にプロジェクトに関する研究成果について講演する機会を与えられました。現地の研究者・学生との交流によって、今後の調査の基礎を築くことができました。


講演の様子

カルナータカ州では、その北部に位置するアイホーレー遺跡、ヒレベンカル遺跡の現地調査を実施しました。これら2つの遺跡は以前からよく知られた遺跡ですが、その実態があまりよくわからないのが実情でした。今回の調査は短期間の予備的な調査でしたが、これらの遺跡に特徴的な地上型石槨墓について理解を深めることができました。

ヒレベンカル遺跡

南インド巨石文化期のインド半島部にはさまざまな形態の古墳が存在していますが、それらの系統関係、編年的位置関係についてはよくわかっていません。まさにこの点の解明が本研究プロジェクトの課題なのですが、継続的に実施してきた各地の古墳の現地調査によって、形態的比較研究が可能になりつつあります。今回訪れたアイホーレー遺跡、ヒレベンカル遺跡もこうした古墳形態の展開を考える上で非常に重要な遺跡として位置づけることができます。

0 件のコメント:

コメントを投稿