2018年4月27日金曜日

国際シンポジウムのお知らせ

2018年6月2・3日に関西大学で「南アジアの鉄器時代」と題した国際シンポジウムを開催します。インド人研究者5名をお招きするとともに、日本国内からも世界各地の鉄文化を研究されている先生方にご発表いただき、南アジアの鉄器時代の特徴を広い視野から考える会にしたいと考えています。みなさま奮ってご参加ください。



詳細は下記のリンクからPDFをご覧ください。


なお、この国際シンポジウムは関西大学文学部考古学研究室,日本鉄鋼協会 鉄文化財にみる日本の独自技術の学際的研究フォーラム,愛媛大学東アジア古代鉄文化研究センター,2017年度文部科学省私立大学研究ブランディング事業KU-ORCASオープン・プラットフォームが開く関大の東アジア文化研究の共催事業です。また、日本西アジア考古学会からの後援をいただいています。

インド調査:2018年3月3日〜3月29日

2017年9・10月に引き続き、ケーララ州およびマハーラーシュトラ州で巨石文化期の墳墓群の分布調査を実施しました。

ケーララ州ではパラヤンヌール地域の墳墓群の悉皆的分布調査を行いました。この地域は低い丘陵が連なる地域で、そうした丘陵の頂部に数多くの墳墓が残されています。環状列石墓、地上式石槨墓、甕棺墓など多様な墳墓が知られていますが、これらがどのような関係にあるのかよくわかっていません。時間的な差異を示すのか、あるいは異なる墳墓形式を採用する集団の存在を示すのか。発掘調査がその差異を明らかにする上で重要な手段であることはいうまでもありませんが、まずはそうしたさまざまな形式の墳墓がどのように分布しているのか把握することが不可欠です。今回の調査では、さまざまな形式の墳墓が一つの丘陵に混在している状況を確認し、分布パターンの把握を進めました。

マハーラーシュトラ州ではこれまでに引き続き同州東部のナーグプル市周辺の墳墓遺跡の測量調査を行いました。高精度GNSSによる分布調査とUAVを用いた測量調査を組み合わせながら、墳墓遺跡の悉皆的記録を進めています。これまでに5遺跡の記録が終了しており、今後分析を進めていく予定です。

マハーラーシュトラ州チャンパー墳墓遺跡

このほか、グジャラート州のヴァドーダラーにあるマハーラージャ・サヤジーラーオ大学考古学科において、同学科が所蔵するマチャード・パラヤンヌール墳墓群出土資料の記録化を行いました。ケーララ州で分布調査を行った地域にある墳墓で、1970年代に同大学が発掘調査を行っており、その際に出土した土器資料です。これによってケーララ州域の巨石文化期の土器

インドでの調査:2017年9月3日〜10月26日

2017年9月3日〜10月26日までインドで調査を実施しました。今回の調査は、ケーララ州およびマハーラーシュトラ州での南インド巨石文化期の墳墓群の分布調査、ケーララ州での南インド巨石文化期の考古資料の記録化、ハリヤーナー州での北インド鉄器時代関連の考古資料の記録化が目的でした。

ケーララ州では、ケーララ州立大学考古学科と共同で、東部の西ガーツ山脈の山間地域にあるマラユール地域およびトリシュール地域に所在する墳墓群を対象として、悉皆的な分布調査を行いました。マラユール地域ではこれまでにも多くの研究者が調査を行い、研究成果を公表してきましたが、悉皆的な分布調査はなされておらず、墳墓群の実態が不明でした。そこで高精度GPSを用いて墳墓の位置を記録し、その大きさや形態などの基本的なデータを作成しました。同様にトリシュール市の東に広がる丘陵地帯に分布する墳墓遺跡でも分布調査を行いました。

ケーララ州マラユール地域コーヴィルカダヴ墳墓群

ケーララ州は沿岸低地部から丘陵地帯、さらには山脈地帯までさまざまな地形環境を内包しています。そうした多様な地形環境に、さまざまな巨石文化期の墳墓が残されています。インド半島部の南端に位置することもあり、南インド巨石文化の展開において重要な地域ですが、これまでは墳墓遺跡の体系的な記録化は行われておらず、実態がよくわかっていませんでした。悉皆的な分布調査を進め、多様な墳墓形式の分布パターンと地形との関係を明らかにすることはこの地域における巨石文化の展開を研究する出発点になると考えています。

一方、マハーラーシュトラ州東部のナーグプル市周辺(古代にはヴィダルバ地域と呼ばれていました)にも多数の巨石文化期の墳墓遺跡が分布しており、数多くの研究者が調査を行っていますが、この地域でも悉皆的な分布調査が行われていないという現状があります。そこでマハーラーシュトラ州考古局ナーグプル支局と共同で、分布調査を行ってきました。この地域ではUAV(いわゆるドローン)を用いて広域に展開する墳墓群の測量調査を実施しています。この手法による測量調査によって、墳墓の分布パターンだけでなく、地形の詳細も記録することが可能で、これまでの研究ではよくわからなかった墳墓群の分布パターンの詳細を明らかにすることが期待されます。

こうした分布調査とともに、ケーララ州アルヴァにあるユニオン・クリスチャン・コレッジ博物館が所蔵する南インド巨石文化期の考古資料の記録化を行い、南インド巨石文化研究の基礎データを得ることができました。

また、ハリヤーナー州では現地の大学院生が分布調査を行っているラージャスターン西部の遺跡群から採取された北インド鉄器時代の考古資料の記録化を行い、南インドの鉄器時代文化との比較研究を進めました。

ケンブリッジ大学考古学・人類学博物館での資料調査:2017年7月19日〜8月5日

2017年7月19日〜8月5日にイギリスにあるケンブリッジ大学考古学・人類学博物館において、資料調査を行いました。2016年11月の調査に引き続き、同博物館が所蔵する南インドおよび北西インドの遺跡から出土した石製装身具の記録作成が目的です。



この博物館には1920〜1950年代にインドからもたらされた考古資料が多数収蔵されていますが、その中に南インド巨石文化に属する墳墓から出土した石製装身具や北西インド(現パキスタン)にあるタクシラー遺跡から出土した石製装身具が含まれています。これらの石製装身具は1930年代を中心にH.C.ベックという装身具研究者の大家が研究成果を公表しており、学史的も大変重要な資料ですが、ここ最近は特に研究材料として取り上げられることもないのが現状です。

こうした資料を記録化し分析の対象とすることは、前1千年紀に北インドから南インドまで広く流通することになった石製装身具の歴史的意義を明らかにする上できわめて重要な作業ということができます。

計測・写真撮影による形態的分析と孔にシリコンを流し込んで作成した孔表面形状の顕微鏡観察による技術的分析を組み合わせて、南アジア各地・各時代の石製装身具の比較研究を進める予定にしています。それによって南インド巨石文化期に広く流通する石製装身具の意義に迫りたいと考えています。