2016年11月20日日曜日

イギリスでの資料調査:2016年11月5日〜11月14日

11月5日〜11月14日までイギリスに出張してきました。目的はケンブリッジ大学にある考古学・人類学博物館と大英博物館での資料調査。両博物館に収蔵されるインド由来の石製装身具についての調査でした。イギリスはその植民地経営の中で南アジア各地で遺跡の考古学調査を実施し、その出土品の一部をイギリス本国に持ち帰っています。今回の調査対象はそうした19世紀から20世紀前半にかけてインド・パキスタンから将来された資料です。出土地の詳細がわからなくなっているものもありましたが、タクシラー遺跡や南インドの古墳から出土した紅玉髄、瑪瑙、水晶などの石材でつくられたビーズは現在でも非常に重要な資料となっています。



調査の結果、これらのビーズは前1千年紀、すなわち鉄器時代の資料であることが明らかになりましたが、この時期に北インドでも南インドでも共通する特徴をもったビーズが分布することがほぼ確実になりました。この時期の北インドはガンガー平原に都市社会が形成され、南インドでは巨石文化が広く展開します。どうやら前1千年紀前葉に北インドで生産が活発化した石製装身具が何らかの契機において南インドにも流入するようになり、南インドでも石材原産地の近くで北インド系のビーズが生産されるようになります。それが南インド各地に流通し、特に古墳の副葬品として用いられるようになったと考えられます。北インドと南インドの交流関係、すなわち南アジア世界の形成過程を明らかにする上で非常に重要な知見が得られつつあります。


インド博物館での講演:2016年9月24日

コルカーターにあるインド博物館で、「Archaeology of Interregional Interactions across South Asia」と題した講演をさせていただきました。インダス文明の形成からその衰退、ガンガー平原の開発、鉄器時代における北インドと南インドの交流関係など、本科研プロジェクトで研究課題としているテーマについて、最近の研究成果を盛り込みつつお話をさせていただきました。講演内容についてはおおむね好意的に受け入れられ、たくさんの質問を聴衆の方からいただきました。

特に最近の研究成果としては、石製装身具の研究が挙げられます。前1千年紀前半の段階で北インドから南インドまで共通の形態、装飾、製作技術によって特徴づけられる紅玉髄・瑪瑙・水晶製玉が分布するようになったことが確実になってきており、この時期に北インドと南インドの交流関係が強化されていたことが推測できます。これまで北インドと南インドの鉄器文化を交流関係という視点から論じた研究はほとんどなく、鉄器時代におけるダイナミックな地域間交流の中で北インドと南インドがつながり、社会変容を引き起こしていったと考えられます。

確実に研究成果があがりつつあります。今後の調査・研究にご期待ください。