2016年9月27日火曜日

研究発表「北インド鉄器時代の諸相−マディーナー遺跡の発掘調査成果を中心に−」:2016年7月2日

ヘレニズム〜イスラーム考古学研究会において、「北インド鉄器時代の諸相−マディーナー遺跡の発掘調査成果を中心に−」と題した研究発表を行いました。2009年にマハーリシ・ダヤーナンド大学のマーンモーハン・クマール教授を中心に行われたマディーナー遺跡の発掘調査の成果をもとに北インド鉄器時代の諸相について検討を加えたものです。



この遺跡は北インド鉄器時代を特徴づける彩文灰色土器文化期の遺跡ですが、バーラー式土器と呼ばれるインダス文明期の土器の系統にある土器と彩文灰色土器が揃って出土しています。バーラー式土器と彩文灰色土器の関係は、バグワーンプラ遺跡の発掘調査以来大きな研究課題となっていますが、それは旧来の文化(バーラー文化)から新出の文化(彩文灰色土器文化)への移行を考える上で重要と考えられるからです。ちょうど彩文灰色土器が北インドに出現する時期(前2千年紀後半)に鉄器が北インドに出現しており、新たな文化と技術の登場が北インド鉄器時代のはじまりを示しています。

マディーナー遺跡ではバーラー式土器とファイアンス製装身具というインダス文明系統の遺物と彩文灰色土器、鉄器という新たな文化に属する遺物がともに出土していることから、前2千年紀後半の文化交替の時期における重要な遺跡と考えられます。しかしながら、この遺跡では年代測定試料を採取することができず、理化学的手法による年代値を得ることができませんでした。文化交替が生じた時期やそのプロセスについてはさらなる調査と研究が不可欠ですが、出土した遺構・遺物は北インド鉄器時代の諸相を考える上で非常に重要ということができます。

鉄器時代における北インドと南インドの関係を明らかにすることをこの研究プロジェクトの課題の一つとしています。両地域の関係を視野に入れながら、南アジアにおける鉄器時代の編年と社会・文化の様相について考察していきたいと考えています。