2015年7月23日木曜日

第1回研究会を開催しました:2015年7月18日

去る7月18日に、「南インド先史文化編年の構築」に関する第1回研究会を関西大学にて開催しました。発表者・論題は下記の通りです。

1)上杉彰紀「南インド先史文化研究の現状と課題」
2)清水康二「ヴィダルバ地域環状列石墓の編年」
3)中山誠二・上杉彰紀「レプリカ法を用いた南アジアにおける栽培植物の研究」
4)長柄毅一「インド及びその周辺における青銅器研究」
5)笹田朋孝「古代インドの鉄生産研究の現状」
6)田中眞奈子「鉄文化財の自然科学的分析からわかること−パルス中性子及び高エネルギーx線を用いた鉄文化財の非破壊分析研究を中心として−」

上杉は、南インド新石器文化と南インド巨石文化の研究の現状と課題について紹介しました。南インド先史文化編年研究の上では、新石器文化から鉄器時代の巨石文化への変化が最も大きな課題であり、巨石文化期になって出現する文化要素の時空間的位置を明らかにしていくことの重要性を再確認しました。

清水さんの発表は、現在のマハーラーシュトラ州東部のナーグプル周辺地域(古代にはヴィダルバ地域と呼ばれていました)における巨石墓の編年に関するものです。この地域には環状列石をめぐらし、その内部に遺体と副葬品を安置し、その上に小礫と土を混ぜて墳丘をつくる形式の墓が主体的に分布していますが、この地域の巨石墓には高錫青銅製品や鉄製品が多く副葬されています。清水さんは、それら金属製品の形態変異の整理と、編年的位置づけについて考察されました。こうした遺物の型式学的編年研究はこれまでほとんどなされておらず、地域ごとに詳細な研究が求められています。

中山さんには、6月13日の日本西アジア考古学会での発表内容を骨子としつつ、日本の縄文時代の栽培植物研究の成果も踏まえてお話しいただきました。近年、日本列島で急速に研究成果が蓄積されているレプリカ法による栽培植物研究は、従来の水洗法による大型種子の研究だけではわからなかったことを明らかにしつつあります。この方法を南インドの先史文化研究に応用することにより、南インド先史文化における栽培植物の研究に取り組みたいと考えています。

長柄さんのご発表では、これまでご自身が進められてこられた南アジアの青銅製品の分析成果の紹介と今後の研究課題についてまとめていただきました。南インド、特にマハーラーシュトラ州東部のナーグプル周辺地域では、巨石文化期になって錫比率の高い青銅製品が出現することが明らかになってきており、その起源の解明が南インド巨石文化の成立において重要な意味をもっていると考えられます。南インド巨石文化が「外来」文化であるのか、南インドの「自生」文化であるのか、遺物の個別研究からアプローチしていくことが重要と考えられます。

笹田さんには、ご自身の東アジアでの鉄研究の成果を踏まえつつ、南アジアにおける鉄研究の現状についてお話しいただきました。巨石文化期の墓には鉄製品が多く副葬されますが、その生産がどのように南インドに導入されたのか明らかにするためには、巨石文化期における製鉄技術の解明が不可欠です。本研究において、南インドにおける鉄の問題は非常に大きな研究課題であり、資料の蓄積と分析を進めていきたいと考えています。

田中さんには、文化財科学の視点から、ご自身の研究成果をもとにした鉄研究の可能性についてお話しいただきました。さまざまな分析方法が開発・応用されている文化財科学の最新の成果についてご紹介いただきましたが、インドの資料の分析をどのようにして進めていくか、文化財科学と考古学の成果をどのように統合していくかなど、本研究の中でその可能性を模索していきたいと考えています。

インド現地での調査はこの冬に予定していますが、現在の段階では既往の研究成果の整理とその問題点の把握、今後の調査・研究の可能性を展望することが求められています。今回の研究会は、異なる分野の研究者がそれぞれの立場から今後の研究を展望してくださり、大変実りのあるものとなりました。



2015年7月6日月曜日

プロジェクトに関する学会発表:2015年7月5日

7月4・5日に金沢大学で開催された第22回ヘレニズム〜イスラーム考古学研究会において、「「インド系」石製装身具の生産と流通」と題した口頭発表をしました。南アジア、西アジア、東南アジアで出土する「インド系」石製装身具について、今後の研究課題をまとめた内容で、今後の研究の出発点にできればと考えています。



特に東南アジアにおける「インド系」石製装身具は西暦紀元前後の時代の海洋交易に関わる遺物で、近年東南アジアでも研究が進みつつあります。前3千年紀から後1千年紀まで長期的な「インド系」石製装身具の動向を検討することにより、海洋交易の変遷や、その各地の社会に対する影響・意義を明らかにすることができるのでは、と考えています。

南アジアに関してはだいぶ資料も揃ってきましたが、西アジア、東南アジアにおける資料を少しずつでも分析・研究の範囲に加えていきたいと考えています。